
将棋の藤井相聡太棋士が受けていたことでも話題になっていました「モンテッソーリ教育」。実際に、どういう教育なのか、おうちでできることはあるのかなど、興味がある方も多いのでは。
そこで今回は、日本モンテッソーリ教育綜合研究所の櫻井美砂先生と松尾博也先生に、お話をおうかがいました。
「自己教育力」=子どもには自分で自分を育てる力が備わっている!
モンテッソーリ教育でもっとも重要なのが、「子どもには、自分で自分を育てる力」「成長しようとする力」が備わっている、という考え方。これを「自己教育力」といいます。
子どもは、歩き方を教えなくても歩けるようになり、言葉を教え込もうとしなくても、自然と話すようになります。
これは、「自分を成長させたい!」という思いの現われです。
また、モンテッソーリ教育では乳幼児期を、0~3歳の前期、3~6歳の後期と分けています。
前期は、「吸収する精神(無意識)」の時期と呼ばれ、人生のなかでもっとも吸収する力が強く、その後では何年かけても達成できないほどの成長を簡単に獲得でき、社会に適応していく時期と捉えています。
後期は、「意識の芽生え」の時期と呼ばれ、前期で無意識に吸収したものを、意識的に整理、秩序化していく時期と捉えています。
そして、それぞれの成長・発達の時期においてもっとも重要なのが「敏感期」です。
敏感期とは、乳幼児期にある特定の事柄に対する強い感受性が現れる時期のこと。この時期に適切な環境を整えることで、飛躍的に吸収することができます。
たとえば、階段の上り下りをひたすらくり返す、何度もフタを開け閉めする、ティッシュを全部引き出す、といった姿は、子どもたちによく見られます。

これらは「運動の敏感期」であるためで、階段の上り下りは体全体を大きく使う「粗大運動」、フタの開け閉めやティッシュの引き出しは、手や指先をたくさん使う「微細運動」を積極的に行っているのです。
このような行動は、大人から見ると、あまり意味がない、あるいは困った行動と捉えられることもありますが、実は大事な成長・発達の段階なのです。
モンテッソーリ教育を実施する施設では、こうした敏感期の行動を、安全に行うことができる環境で、集中して取り組めるよう考えられています。
「言語の敏感期」「秩序の敏感期」など、発達段階に現れるさまざまな敏感期に教具を用意し、子どもが自分で選んで作業できるよう環境が整えられています。
そして、こうした環境を整えるのが、大人の役割です。
子どもの成長・発達の段階を理解すること。子どもの様子を観察して、子どもが何に興味・関心があるのかを知ること。答えを提示するのではなく、考えたり取り組んだりするために必要な環境を整えたり、その環境との関わり方をサポートしていくのが大人の役割です。
夏休みのお出かけ&いっしょに楽しめることは?
モンテッソーリ教育の基本的な考え方に続いて、家庭でもできる取り組みを教えていただきました。
夏休みやお盆休みなどで、お子さんと過ごす時間が増えるこの時期に、ぜひトライしてみてください。
●博物館や恐竜展など、本物や実物を見る体験を!

子どもが興味・関心を持っているものの実物を見る経験がオススメです。
たとえば、さまざまな博物館や美術館、あるいは恐竜展、動物園などです。本物や実物(ミニチュアも含む)などを見たり、においをかいだり、触れたりする体験をしましょう。
動物園や動物のいる場所に出かけると、途中でにおいがしたり、鳴き声が聞こえたりすることがあります。そんなとき大人はつい、「○○がいるからだよ」などと答えを言ってしまうことがありますが、これはNG。何かに気づき、考えようとする子どもの思考を妨げてしまいます。そんなときは、「なんだろうね」と言いながら、子どもが答えを見つけるまで待ちましょう。
●子どもが気になったことをいっしょに調べてみる!
お出かけ先などで大きな山を見て、「なんていう山だろう?」と思ったら、帰って来てから地図帳を開いて調べてみましょう。出かけた地名やまわりにある場所などから推測してみるのも楽しいですね。そこから地図や地図帳へと興味が広がり、はまっていく子どももいます。
見つけた虫を見て、「これはさなぎになる? ならない?」と疑問に思ったとき、図鑑を持参し、その場で調べることもおススメ。帰ってから調べるとなると、子どもの興味は薄れてしまうこともあるので、もし、ネット環境がある場所なら、インターネットなどを使ってすぐ調べてみましょう。写真はもちろん動画で確認することもできます。
●いろいろな感覚に触れる!
身のまわりにある物の感触を楽しみましょう。できれば自然な物がオススメです。
たとえば、麻や綿などの天然素材の布。同じ布でも異なる手触りを感じることができます。
砂場遊びをしているときも、日向と日陰、砂を掘った場所との温度差や、感触の違いも確かめてみましょう。
●日常生活のなかの興味のあることをしてみる!

子どもは大人のまねが大好きです。たとえば、洗濯物干しに興味を持ったら、子どもの手の届くところに洗濯ばさみを用意しておきます。干す前に衣類をパンパンとたたいたり、「きょうはいいお天気ね」と言いながら楽しそうに干したりするなど、「やってみたい!」と思わせる、すてきな所作を見せるようにするといいですね。
また、飲みたいときに自分でお茶や水が飲めるように小さめのピッチャーを用意したり、お茶碗が運べるくらいの小さめのトレーや、こぼしてしまっても、自分ですぐ拭けるよう、子どもの手のひらサイズの雑巾を用意したりしておくと、何かあっても自分で対処することができ、それが自信につながっていきます。
大人が気をつけたいポイントは?
最後に、子どもと接する際に気をつけたいポイントについてもおうかがいました。
●先入観や思い込みを捨て、子どもを客観的に見る!
モンテッソーリ教育では、「子どもを見る」「子どもを観察する」とよく言います。
「どう見たらいいの?」と思われる方も多いと思いますが、子どもをありのままの姿で、客観的に見てください。子どもが何かしていると、つい大人は「○○したいのね」とか、「次はこうする?」などと、勝手な思い込みで見ていることが多くあります。そうではなく、子どものしている様子を客観的に見る視点が求められます。
●声をかけるタイミングを1回飲み込む!
たとえば、子どもがパズルなどをしているとき、わからなくて試行錯誤していると、親はつい「どうしたの?」とか、「こうするのよ」などと声をかけてしまうことがあります。困っている様子が気になり、正解に導いてあげたいという愛情だと思いますが、まだ子どもは集中して取り組んでいる最中です。そこで声をかけると、思考が中断され、集中力も途切れてしまうことがあります。
そういうときは、声をかけそうになったタイミングを1回飲み込んで、ぐっと我慢してみてください。そうして待っていると、自分で解決しようとしている真剣な表情や、自分でやり遂げた満足感を味わっている子どもの姿に出会えることがあります。
●今できなくても、大丈夫! 決めつけずに切り替えを
いろいろな本や情報に触れ、子どもの成長・発達のために、「この遊びをさせたい!」と思ったとしても、実際には子どもがあまり興味を示さなかったり、じっと座っていられなかったりすることもあり、「うちの子には合わない」と決めつけたり、「どうしてできないんだろう」と心配になったりする方もいらっしゃるでしょう。
でも、そのときにできなかったとしても、もう少し後なら興味を持って取り組めたり、別のアプローチのほうが好きな場合があったりします。子どもの成長・発達や、興味・関心は、子ども一人ひとり全く違います。
まったくダメだと決めつけずに、「できなくても大丈夫!」「今は興味がないのね」「別のことしてみよう」と切り替えていく姿勢も大切です。
モンテッソーリ教育と聞くと、「少し難しそう」「敷居が高そう」と思ってしまう方もいらっしゃると思いますが、基本は子どもが自分で成長しようとする姿を受けとめ、そのために必要な環境やフォローをしていく、ということです。その点を知ると、もっと親しみがわいてきそうですね。
「やってみょうかな」と思ったら、おうちでできるワークから挑戦してみるのもオススメです。
お話をうかがった日本モンテッソーリ教育綜合研究の先生監修の、楽しくできるこうさくワークです。

おうちモンテッソーリ『モンテッソーリ知育こうさくワーク』
監修/日本モンテッソーリ教育綜合研究所
学研プラス発行
はる、きる、おる、あむを中心に取り組み、監修の先生による環境整備や声かけの仕方の解説つき。はじめてモンテッソーリ教育を学ぶ方でも安心です。
この記事の監修・執筆者

モンテッソーリ教師養成機関として、通信教育や各種理論・実践講座の開講などを開催。また、幼児教育施設「子どもの家」も附属しており、1歳6か月前後の子どもと親向けの体験教室「たんぽぽクラス」や、小学生を対象とした「小学部」なども実施しています。
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